神様のようなコーヒー
どうしようもなく心もとない時に、涙がでるほどありがたいコーヒーがある。
先日、猿田彦珈琲 恵比寿本店を訪れた。
一人静かにカウンター席に座って、コーヒーを待つ。温かみのある木製のテーブルの上に手を揃えて、時々触りながら。
カウンターはとても小さい。そしてガラス窓がある。そのガラス窓の向こうにあるマンションの植木や、ガラス窓の上に掲げられた黒板をただ眺めた。
コーヒーが丁寧に手渡された。
その仕草はどこか戦前の日本人のそれを想わせる。「いただきます。」つい、一礼したくなる。
ふぅ〜っとため息が出る。
コーヒーを飲んでは息を吐き、幾度となくそれを繰り返した。ただそれだけで、自分の中の固いものや黒いものや何かがスルスルと抜けていくかのよう。
なんなんだろう、この力は!
どんどん体が楽になっていくのを感じる。これこそ、ふぅの真髄である。
まさに一杯入魂。
一杯のコーヒーに込められた珠玉のエネルギー。全身全霊で淹れられたのが分かる。
店内は適度な湿度と温度で、厳冬の外界を忘れさせてくれる。更に、店員さんたちのきめ細やかな心遣いが包みこむようであった。
「こんなに夜遅くまで、頑張り屋さんですね。疲れた時はいつでも来て下さい。」
そう言ってくれた。
頑張れてないのに……。胸がキュっとなる。温かい言葉に、ちょっと涙が出てしまいそうになった。
帰宅すると、妹に言われた。
「前髪切った?なんか、可愛くなってる。」
前髪は切ってはいない。
二階に行って、鏡を見た。
なんだか、人相が良くなっていた。